* おもいで(その24)魂が入れ替わる

 話題は変わりますが、前回の続きの話です。
 本来、志摩川さんが生まれ変わって入っている筈の肉体に他の人格が入っていました。

この(その24)が最後の「おもいで」となります。(管理人)

 心が通じあったような気がしたとき、彼と身体までもが重なって一体のものになったような感じがあった。
 私はすぐに次のところに連れていかれた。
「以前言われたように軍人としてこの世に出るのですね」
「ああ、そうだ」
「こんなに急がれているということは、もうすぐ生まれるということですね」
「いや」「おまえの身体となるものは、もうとっくに生まれておる」
「えっ」「それは、どういうことですか?」
「おまえにはもっといろいろと体験をしてほしいのだが、それには時間が少なすぎてな・・」「今回は、おまえは十数年前にこの世に生まれ出ていなければならなかったのだが・・」
「そのかわり、本来入るべきであったおまえの身体の中に、今まで別の者がおまえの代理として入って生活をしていた」
「そんなこと・・」「思いも寄らなかったことですが・・」「本当にそんなことができるのですか」
「意外とまあよくあることだ」「但し、それが本当に必要と認められた場合のときだけだが」
「中には他のところからの意思が働いて起こることもあるが・・」
「ところで、今まで入っていた人はどうなるのですか」「もう十年以上もいれば、そこから離れたくなくなる気持ちも起こらないとはいえないでしょうに」
「それは、本人が納得済みの上でのことだ」「このことについての真の意味が正しく理解できるだけの器のある人物が入っている」「大丈夫だ」
「でも、その人に悪いような気がして・・」
「気にする必要はない」「行きなさい」
私はその人に挨拶をしようと思ったが、一瞬のうちにすれちがった。スポーツマンタイプの人であった。

STIL,Art by T.Shimagawa
STIL,Art by T.Shimagawa

 私は十代半ばを過ぎた学生となっていた。私の勉強部屋は自宅の二階にあった。近所では二階建ての住宅は珍しく、部屋の窓の外には屋根瓦が辺り一面に広がって見えた。不思議なことに私には過去の記憶というものが全く無かった。ここで自分が育ってきたらしいということは、家族との会話の中で何となくわかった。写真帳には生まれてから現在までの自分の姿が記録として残っているのだが、どうしても思い出すことができなかった。
「最近どうしたんだ」「変わったなあ」「別人みたいだ」「今まであんなに外で跳ね回っていたのに、最近は部屋に閉じ籠りっきりだな」
 父の声であった。私はそこで首を傾げていた。勉強部屋に戻ったときに弟に聞いた。
「外で跳ね回っていたって言ってたけれど、俺は外でいったいどんなことをしていたんだい」
 弟は私の顔をじっと見てから無表情に目をそらし、そして黙っていた。
「じつは、全然覚えていないんだ、前のこと」
 弟は下を向いたまま何も言わなかった、
 記憶が無いといっても、不思議と授業の内容は理解することができた。授業時間外は誰とも口をきかなかった。記憶の無いことを多くの人達に知られたくなかったからであった。私は授業が終わるとまっすぐ家に向かった。帰宅すると勉強部屋に入って夜が更けるまで本を読んだ。弟はこの私の姿を見て不思議そうな顔をしていた。だが、弟は私が声をかけてもそれには一切何の反応も示さなかった。

 ある日のこと、母親が階段の下の方から私を呼んだ。
「最近○○さんとは全然お話もしてらっしゃらないんですって?」
 いつもと違ってずいぶん馬鹿丁寧な言葉を使うものだなあと思った。その名を聞いて同級の一人の顔が頭に浮かんだ。
「あなたのこと、とても心配してらっしゃるわ」
 母がこう言うと、その本人が階段を上ってきた。
「元気かい」「こんなに天気がいいのに、部屋の中で読書とは!」「変わったものだなあ!」
 この様子では以前からかなり親しい間柄であったらしい。
「そうかなあ」「僕はむかしっから本が好きだったし・・」
「へえっ!」「それは知らなかったなあ」「運動しか能がないやっとばかり思っていたがなあ」「部屋の中にばかりいないで外に出よう」
「ああ、いいけど・・」
 彼は私を家の外に引っ張り出した。
「やはり、外の空気の方がうまい」
「うん・・」
 私は運動場に連れてこられた。数人が球技のようなものをしていた。その中に入っていくと皆親しげに私に挨拶をした。
「やあ」
「こんにちは」「久しぶりですね」
 私は無言ながらも丁寧にお辞儀をした。それを見て彼は苦笑していた。
 彼は私に球を手渡した。
「投げて見ろ」「体が鈍っているかもしれないが・・」
 他の人達の格好を真似して、球を彼に向かって投げた。
「もっと力を入れて!」
「もっと思いっきり!」
 私は無我夢中で投げた。
「すごいじゃないか」「全然鈍っていないなあ」
『何だ、思ったよりも簡単だ』
 だんだんと調子が出てきたと思ったとき横を向いて彼が言った。
「交代しよう」
 球を受ける相手が変わっても、私は同じ調子で投げ続けた。
「先輩、もう少し加減してくださいよ」「そんなに強い球、私には無理ですよ」
「ああ、そうか」「わるい、わるい」
 力を加減してみた。こんどは相手の調子も考えに入れながら投球を続けた。でも自分の身体がこんなにも気持ちよく動くものだとは今まで思ってもみたことがなかった。彼等とは以前から親しい仲間であったらしいが、私には新しい友達がこのとき初めてできたような印象であった。

ISUZU,Art by T.Shimagawa
ISUZU,Art by T.Shimagawa

 家では弟がいつも暗い表情をしていた。そして私を見るときの目はつねに怯えているかのように見えた。私は特に弟には優しい言葉と態度で話し掛けるように気を配った。自分の本を弟に読むようにすすめると弟はびっくりしたような顔をした。私はなぜ弟があのようにびくびくしているのか母に聞いてみた。
「何言ってるのよ」「あなたがいつも辛く当たってきたからじゃないの」「私が注意しても、あなたは厳しい方がいいとか言って、私の言葉には耳もかさなかったじゃないの」

 その原因がわかった。そして自分に記憶がないと言えば言うほど、自分の責任から逃れようとしているととられる可能性があるということも・・。

 友人達との練習も進み、試合の日が近くなってきた。それに間に合わせられるように、そのルールを一生懸命になって覚えた。当日全員が無我夢中になって戦った。すべてが順調であった。圧勝であった。わがチームは抱き合って喜んだ。相手側は肩を落としていた。最後にお互いのチームの功績を称え合って分かれた。
 だが私の心の中には、満足のできない何かが残っていた。
『他人に勝って、どうなる』『勝つ者がいれば、当然なこととしてそれに相反する位置に負ける者がいるわけである』『他人に勝てたということは、本人に何等かの資質があったからかもしれないが、それは過去にそれだけの様々な要素が蓄積されてきてそれが好条件の下で充分に発揮できたということではないか』『例えば、効果的な練習をする機会に恵まれていたからであり・・』『同じ志をもつ仲間たちの大きな協力があったおかげであり・・』『それに、家に余裕がなければこんなことはできなかっただろうに・・』『私たちが今試合に勝ったというのは・・』『このような環境の中に生まれてこなければ、試合に勝たなかったかもしれない・・』『いや、この球技に参加することさえ思いも及ばなかったことかもしれない・・』『これに勝つということまで自分で選んで生まれてきたのだろうか・・』『とてもそうは思えない・・』『何かを得るためにこのような場面に遭遇させられたような気がする・・』『何か大きな流れのようなものがあり、その意思によって、勉強し何かを得るためにここでいろいろなことを体験させられているような気がする・・』
『自分達だけの力で勝っただなんて思わない方がいい・・』『相手に勝ったことを喜んでいったいどうなるというんだ・・』『勝たなければいけないのは外側にいる相手ではない・・』『それは、自分の内側にある敵、自分そのものではないか・・』『運動とは体を鍛えるためのものであったのではないか・・』『得点によって勝つのが目的ではない・・』『やはり勝つべき相手は自分なのではないか・・』
これを最後として私は球技には参加しなくなった。運動も授業以外ではしなくなった。お世話になった友人達から練習に出るようにいろいろと説得されたが、私の意思は固く本当に最後となった。

神社と龍神、Art by T.Shimagawa
神社と龍神、Art by T.Shimagawa

 私はあちらこちらの本屋で『心』のことに関して書いてある本を探し求めた。見つけるとすぐに買い求めては、夜遅くまで読み明かした。部屋にはそれに関する書籍ばかりが増えていった。払はそれらの中から得たことを機会あるごとに弟に話していった。弟もその内容を理解していったようであった。
「でも、そんなに立派なことを言うのになぜ・・」
 弟からこういわれて私は心臓が縮んだような気がした。そのときの記憶が無いので、何と言ってよいのかもわからず、言葉も出なかった。しばらくの沈黙があった。
「兄ちゃんは、本当に覚えていないんだ」「生まれてから数年前のときまでの記憶が本当に無いんだ」「母さんから俺がおまえにいつも辛く当たってきたというのはよく聞いている」「だが具体的におまえにどんなことをしてきたか全然覚えていないので、何と言っていいのか何をしていいのかどうしたらいいのか全くわからなかったんだ」
 私は弟の前に頭を下げて額を畳に押し付けた。
「ゆるしてくれ・・」「何をしたか覚えていないなんて言われれば、かえって腹が立つだろう気持ちもわかるが・・」「本当に覚えていないんだ」
「でも、おまえの目を見れば何かがあったことはよくわかる」「その目にはっきりと出るほどであるから、かなりの酷いことをしてきたことと思う・・」「許せ・・なんて、かなり虫のいいことだろうと思うけれども・・」「ほかに何もできないんだ」「謝ること以外には・・」
 弟は身体が小刻みに震え、彼の目は怒りで煮えたぎっていた。弟は先の尖った長い物を右手に掴むとそれを持ち上げた。その先は私に向いていた。それを降り下ろすと弟に一つの業が追加されてしまうことを私は本で読んで知っていた。私は弟がそんな小さな人間でないことを彼のために祈った。でも弟がそれで気が済むのならば、自分はどうなってもいいと思った。私は弟の目を見つめながらこういった。
「それで私を許してくれるのならば、やってくれ」
 弟は手を下ろして横の方を向きながら力なく答えた。        、。
「わかったよ」「兄さんの言うこと、信じるよ」「でも、許すとも許さないとも言わないからね」
「うん」「よし、わかった」
 私は弟の気持ちを大切にしようと思った。

 友達がみな就職していく中で私だけが上級に進んだ。この時代には子供を上に進学させるだけの金銭的余裕のある家はまだ少なかったし、課程を終了すればすぐに手に職を付けさせるというのが一般的な考え方であった。上にいけるのは親のおかげではあったが、ただ親に決められた人生のコースにそのとおりに添っているだけだと自分では考えていた。親の過度の期待もあり、これらが私の心の重い負担になっていた。そしてこれが親の下から離れたいとう欲求の起こる一つの原因となっていた。

 

管理人の所感

 

今日は志摩川さんの「おもいで」の完結編を公開ましたが、一人の男性の人生において二つの魂(?)が入れ替わった話です。

その男性はスポーツマンで野球をしている学生のようでしたが、スポーツが勝負事の場合は、スポーツをすることが不調和を作っていること、そしてスポーツを楽しんでいることは不調和を楽しんでいることなのだと氣づき、止めてしまいました。

私たちが目指しているのは一極の世界です。

一極を作り出すために二極を経験しています。価値と負けも同じです。

それは愛という言葉のない世界、調和という言葉のない世界、自由という言葉のない世界、善という言葉のない世界です。愛があれば愛のない状態、自由があれば自由のない状態(不自由)が存在します。

 

闇は光のない状態とはよく言いますが、逆もまたありです。
光しかない世界では、闇が存在せず、闇と対比される光という言葉も必要ないのです。
あったとしても使うことはありません。
愛が満ちていて当たり前にどこにで愛がもあれば、愛という言葉の存在の意味がありません。
自由しかなければ自由という言葉も必要ありません。不自由という存在が先に有ったので不自由でない状態を自由と呼んだのです。

善悪も同じ、悪のない状態を善と言います。
調和・不調和も同じです。

 

和音という語彙が頭に浮かんできます。
コードの3つか7つの音は決して二つ存在せず、それぞれが正しく位置して調和の音を奏でます。
決して争うことはありません。
そんな心の世界を作るために、私たちは毎日心の中にある不調和をこれでもかと見せられます。

 

志摩川さんはまだまだ前生の「おもいで」をお持ちのようです。
地球へ来る前の前生や、恐竜の時代に生きて見た恐竜の真実、東日本と西日本が衝突したときも経験しているようです(東西の衝突は遠い昔ではありません)。
いま私たちが教えられている歴史や常識とは、まったく別の世界、別の地球の真実が存在していることを志摩川さんは生き証人のように知っています。
私たちの心がもっと自由になって真実を受け入れる時、もう一つの「おもいで」と私たちは遭遇できるのです。


24話を、最後までお読みいただきましてありがとうございました。
志摩川さん共々、心より御礼申し上げます。